叫んで叫んで叫んで叫ぶー(Scream and Scream Again)
http://www.propellerheads.se/substance/discovering-reason/index.cfm?fuseaction=get_article&article=part6
うお、こええ(Oh, the Horror...)
あたらしいReasonのFXユニットが街にやってきたが、別に荒らすわけでもない。必殺技はScream4のサウンド破壊ユニットだ。ええ、かっこよく演奏できて、滑らかなテープサチュレーションアルゴリズムでまったりと加工できますとも。でもその無邪気な顔つきの裏でオーディオの暗殺をたくらんでいる。狂気の切裂き魔はあなたのサウンドをずたずたに切裂き、その事実を知る者を誰一人として生きて残さない。あなたは続きを読む勇気があるか?
 
ゆがめられた真実(Distorted Reality
Scream4は疑う余地なくソフトウェアの中でもっとも良質な音で利口だ。とても本物っぽく自然なサウンドを生み出すことができる。ディストーションはいろんな形や大きさの中に含めることができる;音楽の構成が、ギターアンプでエッジを強調されたロックンロール形式のディストーションとある程度同じ形式であっても、それ以上のものも含めてもいい*1。辞書に載っているとしたら、ディストーションは”自然にそうであるか通常そうである形を歪めて、逸脱させる行為”だろう*2。Scream4にある10個のアルゴリズムのいくつかは、アナログとか”本物の”ディストーションの模倣とは言えない。ModulateやWarpやDigitalは、そういうのとはぜんぜん違う。以下にそれぞれのアルゴリズムについて簡単な要約を紹介しよう(詳細な記述はReason2.5のオペレーションマニュアルの226ページにある):
Overdrive は、アナログタイプのオーバードライブエフェクトだ。オーバードライブは強弱(dynamics)の変化によく反応する。Damage Controlを低く設定するとちょっと”ざくざくした”エフェクトになる。オーバードライブはアナログ機材でリミットしたときやそれを超えるほど強調させたときに発するような、不可欠の”楽しめる”ディストーションだ。これは1960年代の、ギターアンプがふつう非力(5〜35ワット)でモタりやすかったロックンロールの黎明期に見ることができる。ギターアンプの製造者が、これがギターアンプの望ましい使用法だということに気づくには、長い時間がかかった。彼らはこれをギターアンプの誤用だと思っていたのだ。
Distortion は、オーバードライブに似ているが、密度が濃くてぶ厚いディストーションだ。このディストーションはオーバードライブと比較するとDamage Controlはより”落ち着いた(even*3)”レンジだ。このアルゴリズムは1980年代のヘヴィメタル系の作品によくある、トランジスタディストーションを模倣するときに登場する。
Fuzz は、明るくて低めのDamage Control設定のディストーションサウンドだ。攻撃的で、ワスプ的なジミヘンドリックスエフェクトだ。ブンブンうなる音が顕著でありながら、低音はほとんど出ない(An obtrusive buzzing sound with little to no low end. )
Tape は、やわらかいクリップ音のディストーションをエミュレートする。磁気テープのサチュレーション*4や音に”パンチ”を加えるコンプレッションによってもたらされる。このアルゴリズムは”脱デジタル化(de-digitalize)”をしたい時なんかに個別の楽器やミックス全体に使うといい。
Tube は、真空管をエミュレートしたディストーションだ。チューブディストーションは温かみと厚みがあり、トランジスタディストーションよりも音楽的に目立つ。真空管アンプ(本来は”valve”アンプと呼ぶ)は、本来はギターアンプだったが、後にトランジスタアンプにその座を奪われた。でもすぐに刷新され、今でも”グルメ”な選択としてとして生き残っている。
Feedback は、フィードバックループで組まれたディストーションで、とてもおもしろくて時に予測できない結果を生み出す。基本的にフィードバック(Feedback)というのは音源それ自体に送り戻される(fed back to itself)ことを言う。このアルゴリズムは、めっちゃ楽しいが、それを最大限に味わうためにはP1やP2をコントロールしなきゃいけないこともある。
Modulate は、フィルタとコンプレッションをかける形で信号を増幅させ、ディストーションを加える。共鳴し、鳴り響くディストーションエフェクトだ。Multiplicative Synthesisともよばれ、シンセサイザー(たとえばSubtractor)ではごく普通のエフェクトだけどボーカルとかアコースティック楽器のサンプルなんかの自然なサウンドに使うととてもおもしろい。
Warp は、入力信号をゆがめて増幅させる。もっと知りたいならスタートレックを見るべし。
Digital は、解像度とサンプルレートを現象させて、生々しく荒れたサウンドやヴィンテージデジタル機材のエミュレーションをする。このエフェクトはかなりの応用性を秘めていて、古いアーケードゲームのサンプルからAphex Twin的な”デジタル溶解(digital meltdowns)”にまで使える。ミックス全体を、ピクセル化(pixelated)した音の渦に吸い上げるのだ。
Scream は、Fuzzに似ているけど、レゾナンスとゲインを高くしたバンドパスフィルタを備えていて、それらがディストーションに至る前に適用される。このアルゴリズムのクールな点はバンドパスフィルターだ。その周波数をP2ノブでコントロールでき(またはAuto CV出力をP2 CV入力に入れる)、重厚なワウエフェクトをかけることができる。
基本的には、ディストーションに関する固定観念は捨てたほうがいい。A)ギター以外のどんなサウンドもゆがめることができるし、B)Scream4は他のディストーションエフェクトよりももっと柔軟だからだ。ドラム、ベース、ボーカル、パッド、何でもこいだ。Scream4がボコーダサウンドにも使えることを示した簡単な手本がある*5。Reason2.5の実力を拝見するにはちょうどいい例だろう。
Scream4はとてもわかりやすいので、この記事ではさらにエフェクトの手本をあげるつもりはない。Scream4のプリセットの幅広さは、Reason2.5と一緒にインストールされるFull Effect Sound Bankを見れば明らかだろう。その代わりに、”隠された”特徴を見ることにしよう。それは、オーディオエンベロープの付属物を利用するもので、新しいタイプのCVシグナルだ。Reasonをまともに使っているだけではぜったいにできない、めっちゃ使えるトリックだ。
 
Grand Theft Auto
Scream4の自動化機能はとても使えるものなので、ちゃっかり盗んでしまうか、少なくとも借りるくらいはしよう*6。これはScream4を実際のエフェクトとして使っていなくてもできる。もしある音にボリュームが欲しくて(それかボリュームを下げたくて)何かを変えたいと思っているのなら、やり方はいっぱいあることがすぐにわかるだろう。UN-16 Unisonでデチューンパラメータを動的にコントロールするのはどうかな?ラウドがかかって濃密なデチューンができる。それともMalstromのShiftパラメータをコントロールするのは?オリジナルのコンプレッサーを作るのは?何千というやり方がある。以下にちょっとだけ例を:
ダッキング(Ducking:沈ませるくらいの意味)。Spider CVを通してAuto CV信号を逆変換できる。これはサウンド入力が大きくなるほど、Auto CV値が低くなることを意味している。この応用は”ダッキング”エフェクトとして使える。つまり、一方の音源のボリュームが増えると、もう一方の音源は減少する。手本のファイルはduckandcover.rnsだ;ここでは2つのDr.REXを使って違うドラムループを演奏している。一方のDr.REXのボリュームを上げると、他方は”引き下ろされる(drown out)”。でもこの例は不完全だ。正系のドラムループのスライスの音が止むたびに、”副系”のDr.REXはそれをくぐり抜けるからだ。手本のファイルのリバーブディケイかフィードバックディレイを増加させたらその意味がわかるだろう。
外部ソースの自動ワウ(External source Auto Wah)。外部音源でワウエフェクトをコントロールするのはいかが?それをするには2つの音源とひとつのScream4が必要だ。例のファイルblabbermouth.rnsでは、ReDrumをソース信号として、SubtractorのカットオフフリーケンシーをコントロールしているScream4を自動化するために使っている。この場合、ReDrumにディストーションのエフェクトは必要ないので、Scream4のエフェクトを全部オフにできるし(いずれにしろCV outは操作できる)、Spider AudioでReDrumの信号を分割できる。つまりステレオシグナルの片方をミキサーに送りつつ、他方はScream4を”終着点”として使えるわけだ*7。おまけとして例のファイルにもうひとつScream4があるが、これはSubtractorのエフェクトとして使いながら、CV出力で自分のP2パラメータも操作している。このシグナルはSpider CVで逆変換されて、”Scream”アルゴリズムのP2パラメータでバンドパスフィルタのレゾナンスをコントロールしている。”逆ワウ(inverse wah-wah)”ってわけだ。チェケラ。
ECF-42でワウ(ECF-42 wah)。Scream4単体の自動化機能を使っても十分なワウエフェクトを得られないようなら、もっとでっかい大砲が必要かもしれない。ECF-42エンベロープコントロールフィルタならお気に召すだろう。Soopah wah.rnsがその設定例だ。ECF-42をバンドパスモードにしている。自動化機能を正しく動作させるにはちょっと工夫が要るんだけど、十中八九はその信号があまりにも強すぎることによる問題だ。エンベロープの付属物(envelope follower)が開けっぴろげになり、結果的に”ワウ(wah)”というよりはむしろ”ウェエエエエ(weeeeeeeh)”エフェクトになってしまうからだ。その問題を解決するにはいくつか方法があるけど、まずは楽器とかの入力音量を下げることからはじめよう。Scream4は低い音量のものを補正するのに向いている。というのは、Scream4はダメージをなくしたり、切ったり自動化したりする分のためにゲインを多めに確保しているからだ。では、マスターポットを100にする(最大ボリューム127ではない)*8。スイッチをオンにしてもバイパスにしても、何も違いがわからないはずだ。そこで自動化機能を試してみると、たぶん小さい音でソースサウンドが聞こえるだろう。マスターゲインで補正されたわけだ。オートCVを使っても同じ問題があるのなら、相手側のデバイスのCVポットを調整して信号を鈍らせてみよう。
 
おわりに
これは疑いようもなく殺人デバイスだ。また、ラック内の楽器のインサートエフェクトとしても、大変便利なカメレオンでもある。いつでも大爆発的に使わなきゃいけないことはなく、ほとんど気づかないくらいのセッティングにしても不思議な感じを出せる。こりゃ使わずにはいられないね。

*1:日本語にしにくい。最後のthan thatで比較されるのはsomewhatかな?: even though the term in a musical context has become somewhat synonymous with the rock'n'roll-type distortion produced by a guitar amplifier pushed over the edge, the term encompasses much more than that

*2:実際、オックスフォード現代英英辞典の見出しにはdistortionの項目はなく、distortの派生語のような扱いになっていた

*3:オペレーションマニュアルでは”高い”という訳になっている

*4:Saturationは飽和という意味。テープで入力音量が大きくなりすぎたときに「ボボボ」とノイズを発するやつだ。音がエネルギッシュになるのでピアノ弾くときによくお世話になってます

*5:本文中で.rnsファイルのリンクがある

*6:タイトルのGrand Theft Autoはクルマを盗んでめちゃくちゃなことができるゲームの名前だが、これがGrand Borrow Autoだと笑えるなあ

*7:単にReDrumの音を鳴らしつつ、それをエフェクトにも使えるということ

*8:ここから先は何の説明なのかよくわかりません