スウェーデンの本家REASONのDiscovering Reasonというチュートリアルが大変参考になるので翻訳してみます。シリーズ全部を訳すほど続けられるかわからないので期待しないでください。英語が得意というわけではなく、単にREASONというソフトウェアが好きなだけなので、誤訳はたくさんあると思います。だから正確に知りたければ翻訳を注意深く見るより本家の英語を読んでください。()内は、日本語にするにあたって足りない部分や、単に訳せなかったところです。

マスタリングをマスターする
http://www.propellerheads.se/substance/discovering-reason/index.cfm?fuseaction=get_article&article=part3
バージョンに注意!この記事はMClass Mastering Suiteが登場するReason3.0のリリース前に書かれたものだ。ただReasonのマスタリングトリックはその追加によって変わってしまったけれど*1、一般的なマスタリングテクニックとしてはまだ妥当性がある。
マスタークラス!
この号ではReasonデバイスの解体からはちょっと離れて、その代わりにホットな話題に注目しよう。それは、マスタリングだ。伝統的に、マスタリングは音楽製作の周辺的な領域に孤立していたが、最近では音楽製作の現場や配信がより家庭に近くなったことで、マスタリングもそれらに付随してきた。アーティストは伝統的な音楽配信方法を模索する道すらすっかり飛び越えて、MP3にするかホームメイドCDにするかを選んでいるほどだ。do-it-yourselfの思想に従うつもりなら、この手順の最終局面までマスターしなきゃいけない(あなたが作曲家であり、演奏家であり、プロデューサーであり、ミキシングエンジニアでもあるのならそれでも不十分だ・・・!)。言うまでもないことだが、人々がキャリアを形成し音響の改善で生計を立てられている理由はここにある。もしあなたが死んでしまって、あなたが製作したものをどうするか真剣に悩むようなら、プロフェッショナルへの道を検討するのがいいだろう。マスタリングは何かそういう”家でやるものじゃない”事であるかのように考えられる。でも、冒険精神があるのなら、ここに芸術の初歩的な事やオーディオマスタリングの科学を紹介するので、マスターカードを用意してカードのグレードをあげるよう準備しておこう*2
はじめにちょっと話はそれるけど、こんな疑問を持ったことはないだろうか。「なんで僕の曲は、売っているCDのように音が大きくないのだろう?ピークのメーターはどちらも同じ音の大きさであることを示しているのに!」あなたが理解すべきことは2つある:1)この記事であなたの疑問に答えよう。これはあなたのために書かれたものだということ。2)ボリューム(実際でも印象上でも)という題材に注目する場合、単なる音の大きさよりも、マスタリングにより注目しているということ。実際、マスタリング技術者は「音の大きさを競う」ことを嫌っていて、もっと保守的なアプローチを好むのだ。とはいっても、ホームスタジオのオーナーはどうしろというのか。どんなCDをかけてもえらいやかましい音が、まるで巨人のように(like the Incredible Hulk)スピーカーや部屋の壁を突き抜けるというのに。じゃあはじめてみよう!
 
知覚上の音量 - 祝福か呪いか?
リモコンでCMを飛ばそうとして(間違って)ボリュームボタンを押したがためにソファから飛び上がった経験はないだろうか?CMで使われているオーディオは、通常「マッチョにマスタリング」されていて、コンプレッションやリミットでも押さえ込むのが困難なほどに核爆発的だ。メッセージを聞き取ろうとしてこれをやってしまうと、もはやキッチンに非難場所を探そうとしても無駄な抵抗だ。逃げ場はない!でも、ふつうにプログラミングされたオーディオの音量を最大にして流した場合のことを思うと、少なくともその2倍の音量をCMはどうやって実現しているのだろう?手短な理由はこうだ:人間の耳は、音量をその最大によって判断しているのではなく、平均で判断しているということ。ここに「知覚上の音量」が登場する。耳の不完全性とは、1〜10ミリ秒以内のごく短い音を拾えるほどには敏感ではないということと、音量を正確に解釈できないということだ。現代の音響科学は、技術を発展させてこの瞬間的な音で最大音量の衝撃がいかほどかを確かめるために研究成果をあげるよう技術者に教えている。けれども、「平準化すること(Normalization)」は、その教えには含まれていない。
 
平準化は”ふつうに”することとは違う(Normalization doesn't make it "normal")
あなたの曲を”平準化”するようにアドバイスを受けたことがあるかもしれない。音響編集者はみんな平準化の機能をアドバイスする。でも平準化って実際何をするもんなの?それは、オーディオファイル中のもっとも大きい音を探し出し、それにしたがって曲全体のボリュームを調整することだ。Reasonの曲が、クリップのリミットのぎりぎりセーフのところでとどまっているのなら、もっとも高い音量は、おそらくすでに0dBあたりになっているだろう。つまり平準化をまったくしなくても達成できているということを意味している。
事の核心を射止める前に、シンプルかつ効果的なデモンストレーションを追って見てみよう(記事全体にわたって”射撃訓練(target practice)”というよく知られたデモソングの曲の断片を使うことにする)。*3
注意:記事中にあるmp3オーディオの例がループなので、デフォルトのmp3プレーヤーをloop/repeatモードに設定しておくことをお勧めします。
 
(図)
左の図は平準化する前のオーディオだけど、すでに述べたとおり、すでに0dBに近いなら平準化の出る幕はない(この場合、-0.21dBだから無視できる違いだ)。オリジナル(左図)を見ると、3つのピークを確認できる(針のようにとんがって、-6dBの赤い線を超えているやつ)。この場合、そのピークはバスドラムによってもたらされている。音楽情報としてはこれらに事実上の意味は無いが、彼らのせいで音量を上げる気にならないという問題がある。真ん中の図では、リミッターを使って-6dB以上の音量をすべてカットした。これがやりすぎかどうかは、あなたの作業している環境によるんだが、それもここで言いたいことの助けになる。これ(mp3)をきいてみて、この(mp3)加工したバージョンと比べて欲しい。違いを言えるだろうか?言えなければ、あなたは音を絞っていたのだ。ピーク音によって元は囚われの身だった6dBの叫び声が、今は開放されているからだ。このことは3番目の図(右)へ導いてくれる。連続的に0dBになるよう平準化された、魅力的に加工されたサウンドだ(mp3)。どうよこの音量は?*4
 
クリップ音とメーター
アナログが王様だったころ、もっとも恐れられていた”音量という魔物(level enemy)”が低音部分におりましたとさ。--ノイズだ。アナログテープレコーダーは、最大音量付近においておもむろに(ノイズという)乱暴者をつれてきたが、ひとたび音量が下がるとノイズは裸ん坊のままほったらかしにされた。アナログテープレコーダーに負荷をかけても汚らしいクリップ音を生成しなくなったのはデジタルオーディオのおかげだ。実際、わずかな負荷なら心地よいサウンドを生み出すことがよくある。デジタルの領域では、低いオーディオ信号はちっとも心地よくないが、でも副作用はデジタルの負荷よりはぜんぜん破壊的じゃない。一旦クリップ音が出てしまったら取り返しがつかない。まるで過度に露光された写真のように、真っ白に解けてしまって元通りにできない。何をするにしても、生の、加工されていないオーディオはクリップ音など発しないことを確かめておこう。メーターを注視しつつも、耳で最終判定をさせておけば、たまにはクリップ音を除去できることもあるだろう。だけど、自分の耳を完全に信用しないのなら、安全な場所にとどまり、赤いライトを頼りにすることだ。
アナログ設備に見ることができる、昔ながらのアナログVUメーター*5は、音量感について実際に人間の耳の知覚に近い。反応時間を約0.3秒と、意図的にゆっくりにしているからだ。デジタルのピークメーターは一般的に光の速さだ。サンプリングそのままの速さで、したがって最も精度が高いので、たいていの一瞬の音量の上昇で、恐ろしげな赤いライトをまっすぐに打ち上げてしまう。あなたが音量のピークなんて聞こえないと言い張っても、よくあることだが、そのとおりなのだ。デジタルのピークメーターはデジタルオーディオ機器の代弁者として一役買っている。から、たぶん”ピークアラーム”はもっとふさわしい名前でもいいはずだ。つまり、額面通りに信用しちゃいけないってこと。
 
モニタリング
俺たちはラウド好き、でしょ?長いスタジオセッション中は、ノッチをかけて*6いつも耳が麻痺してるしてるんじゃないか。サウンドをよりよく、パワフルにし、細部まで明瞭にできるからだ。忠告として:そんなことはしちゃだめだ。何よりもまず、人間の耳はコンプレッサーとリミッターでできていて、神秘的な仕組みなのだ(一部は自衛機構で、一部は不完全)。つまり耳をつんざくような音量に近づくと荒々しさを滑らかにし、そうでないときは無理なくミキシングしてバランスをとって印象的な音を与えてくれる。このミキシングの機能が、実際にチャートの音に忠実であるかどうかを確かめるもっともよい方法は、非常に小さい音にして聞いてみることだ。ただそれだけのことで、例としてバスドラムが、他の何よりも2倍大きな音であることがわかるだろう。他の方法としては、スピーカーがおいてあるのではない近くの部屋で聞いてみることだ。後者では、音が大きくなるにつれベース音がよく聞こえるようになるだろう。なぜならベース音に対する耳の反応は、非直線的だからだ。結果的に、あまりに大きな音でモニタリングすると、せっかくのベース音が除外されざるをえない。どうせそんなことになるんなら、はじめから離れておけばいいのだ。それか、低音をブーストするかだ。
 
マスタリングの前に
自分の曲で幸せですかー?それとも問題を解決したくてマスタリングに何かを期待してるかな?もっとも偉大な権威者といえども、音波の大惨事を無限地獄から救出することはできない。音楽製作とミキシングの現場において、心に留めておくべきことはたくさんある。これこそがプロフェッショナルサウンドの礎石となるものだが、マスタリングで手直しするのは、やらないよりはやったほうがいいというくらいのものだ*7。マスタリングステージに到達する長い道のりの前に、考えておく価値のある議論を紹介する。
 
・むらなく割り振る(Distribute evenly).
20から20,000Hzの間にはかなりの隔たりがあるけれど、ミキシングで曲が乱雑になるより先に、曲中の一部分の周波数が乱れてしまうことがある。低域に注目しておこう。というのはふつうはそこから混乱し始めるからだ。イコライザーの力は、増大させるよりもカットすることに使うものだということを忘れずに。それぞれのサウンドを分析し、吟味する時間をとろう。ミキシングで何が付け加わるのか、必要なものにくっついて不必要なものがもたらされないか、もしそうなら、不必要な部分を除去することはできないだろうか、というふうに。
 
・低音のオクターブはやめよう(Hands off those low octaves).
え?それって・・・ベース無しってこと?もちろん違う。でもキーボーディストがピアノやパッドやストリングを演奏するときに、彼らはよく右手でコードを弾いて、左手で”ベースを表現”している。これは今では悪い習慣であり、濁った古臭いベースだ。単純に、パッド、ストリング、ピアノ(あるいはコードで演奏するものはすべて)の音は、低域のベースラインに全体の音域で勝ってしまうからだ。左手(left hand)はポケットに入れとく(left)のがベストだってこと!一般的に言うと、これはバカみたいにたくさんの楽器を同じ音域、同じ周波数、で使わずにアレンジするいい練習になる。むらなく割り振る(Distribute evenly)ことを心がけよう。
 
・少ないことはいいことだ(Less is more).
好きかどうかにかかわらず、この古い格言はいつでもあてはまる。ある曲(またはある曲の一部分)にエネルギーが足りないと感じたら、ベストな解決方法はむしろ取り除くことであって追加することではない。アレンジのために追加するのは、もともとあるアレンジのエネルギーを吸い取ることになる。たまにはうまくいくが、たいていは悪い結果になる。追加するのは、音の壁(wall-of-sound)を引き出すような製作なら有効だけど、そういうのは難しい曲芸であって、卓越したプロデューサーや、熟練したミキシングエンジニアかマスタリングエンジニアのエリートだけがうまくやることができる。
 
・慎重に積みあげる(Stack with care).
今日の無限のポリフォニーと、終わることのない楽器の供給によって、音を積み上げることは誰もが味わうことのできる贅沢だ。3つ、4つ、8つを一度に使えるのに、なんで2つのスネアしか使わないんだ?とはいえ気をつけて欲しい。何かを追いやること無しに何かを追加はできないという、厳しい均一化の教えはここでもまだ残っている。2つの音を重ねたのなら、お互いが補い合っていることを、衝突していないことを、確かめておこう。あらかじめプログラムされたドラムにドラムループを付け加えた場合、元のドラムを聞こえるようにするためにループの周波数を調整して切り取るなんて、たぶんできないよね?
 
・集中させるミックス(Mix with focus).
全部のサウンドを前面に持ってくることはできない。アレンジやミキシングにはそもそもの問題がある。ある瞬間にはにはたいていひとつの音にしか集中していないという問題だ。ひとつの音に注意を向けるときは、その音を捉えようとするために強調し、促進し、密集の中から際立たせようとするだろう。すべての音に対してこの特別な扱いをしようとすると、結果として、一瞬のうちにどの音も際立たなくなり、抜け出せない泥沼にはまっていることに気づくだろう。音楽を絵画のように扱おう。観衆に対してひとつのスポットに注目して欲しいと願うように。他の音は二の次でよく、抽象化することやすっかり取り除かせることによってある音を犠牲にすることを恐れてはいけない。そうすること(ある音を犠牲にすること)は往々にして、スポットライトをあてて欲しいという願いにとってよいことなのだ。
 
・超低音に注意(Careful with those subsonics).
実際に聞こえないような周波数は、たいていのシステムにおいてはバンド幅の無駄遣いだ。それらは曲の音量を抑えてしまうし、ゲインも、まあまったく得られない。よろしくないことに、超低音のベースを増幅させると、そんな音を出せているのでスピーカーがちょっとよくなったような気を起こさせるが、安いシステムだとスピーカーのコーンがひっくり返ってしまうかもしれないし、特に”重低音(MegaBass)”をブーストしたりとか、低音信者のDQNがベース音なんてちっともまともに扱えないようなチープな軽いヘッドフォンや大型ラジカセ(ghettoblasters)やらで調子に乗ってるのは目も当てられない*8。大地を揺るがすベースを実現するようなダンスフロアを作ることは現行のミキシングではできないんであって、そうした作業は大地を揺るがすPAが出現したときにやればいいのだ。逆に、ハイファイサウンドを無理してまねるために高音をブーストするのもやってはいけない。あくまでも自然にいこう。
 
マスタリングソフトウェア
あなたがマスタリング職人であるかどうかはともかく、マスタリング作業を実施できるソフトウェアはたくさんある。まずはよい波形編集者になることからはじめることだ。Macなら、PeakやSparkがあるし、WindowsならWaveLab、SoundForge、CoolEdit Proなんかがある。さらにVSTプラグインDirectXプラグインもいっぱいあるでよ。たとえば・・・
 ・BBE Sonic Maximizer
 ・Steinberg Mastering Editon -- Compressor(マルチバンドコンプレッサー), Loudness Maximizer, Spectralizer, PhsaseScope, SpectroGraph, FreeFilterが付属してる
 ・Waves Native Gold Bundle -- C4 Multiband Parametric Processor, Renaissance Reverberator, Renaissance Compressor, Renaissance Equalizer, L1 Ultramaximizer, MaxxBass, Q10 Paragraphic, S1 Stereo Imager, C1 Parametric Compander, DeEsser, AudioTrack, PAZ Psychoacoustic Analyzerとか、他にもたくさん付属してる
 ・db-audioware Mastering bundle -- dB-M Multiband Limiter, dB-L Mastering Limiter, dB-D Dynamics Processor, dB-S De-Esserが付属してる
T-Racksもある。スタンドアロンのマスタリングキットで、MacでもWindowsでも使える。
もちろん、すべて価値あるマスタリングツールであるからして、compressors, de-essers, dynamic processorsなどのプラグインは”マスタリング”する必要はないし、またこれらはマスタリング以外の用途にも使えるものだ。
これらのプラグインによって期待できる結果の例として、以下を試してみよう。
 
 (図)
 
まず、Reasonから”Why Red”というデモトラックの一部をエクスポートし、そしてWaveLabに読み込んだ。オリジナルの未加工の音がこれだ:(mp3)そしてBBE sonic Maximizerを使って冴えと明るさを音に付け加え、Loudness Maximizerで知覚される音量(perceived loudness)を増やした。結果はこれだ:(mp3)これも聞きたいだろうか(mp3)それぞれの2本の線まで加工した波形を比較したものだ。
これは典型的な”マッチョマスタリング(macho mastering)”だ。知覚される音量が最大限になるように加工することによって、魅力的で大きな変化を作り出せる。
これくらいのことはあなたはもう習得済みだとしても、洗練された「マキシマイザー」プラグインよりも自分の能力が優れていると過信してはいけない。といっても、マキシマイザーは使いすぎないように注意しなきゃいけない。ひとつのパラメータでさえ、間違えようのないほど簡単に操作できるものではないからだ。不幸なことに、どんな曲にも適用できる”手品(blanket procedure)”なんてない。それぞれの曲を注意深く聞き、その強さと弱さを判別しなければいけない。商用CD(できればあなたがグレートだと思うもの)を自分がマスタリングで使っているのと同じシステムでかけてみるといい。一度そのサウンドを心に焼きつけることによって、それを自分の曲へ反映することや、問題に焦点を当てることがしやすくなる。開眼させるのによいツールは、スタインバーグのFreeFilterだ(マスタリングエディションの一部が同梱されている)。これは学習機能がついたイコライザーだ。お手本の曲(”ソース”)をかけると、FreeFilterがそのサウンドの特徴を分析してくれる。そして同じ手順を、自分の曲(”デスティネーション”)にも繰返してくれる。それによってソースとデスティネーションの周波数のカーブを比較でき、あなたが自分の曲にかけたイコライジングの問題点を明らかにしてくれるのだ。*9
 
応急処置的FAQ
というわけで我々は、一般的で、間違うはずのない、魔法のマスタリング方法なんてないという事実を確認してきた。じゃここからはどうしよう。たぶんベストなアプローチは、”応急処置”に話を切り替えることだろう。古くからある議論のタネをFAQ形式で紹介することにする。
 
Q:俺の曲はダルくて暗くて、パンチが足りねえって感じ。どうすりゃいいの?
A:それはボリュームに関する問題のようですな。生の、加工されていない曲は、デジタルにおいては単にドライで、鈍くて、薄っぺらな音質でしかない。マルチバンドコンプレッサーを使うといいけど、もしパラメータの扱いに自信がないなら、Loudness MaximizerとかL1 Ultramaximizerとか、BBE Sonic Maximizerとかの上級ラウドネスプラグインがいい。これらは一般的にコンプレッサーなんかよりは良い結果をもたらす。なぜならコンプレッサーは「音をでっかくする」とかの間違えようのないコンプレッションを加えるわけではないからだ。マキシマイザーやコンプレッサーを強調すればするほど、ダイナミックレンジをつぶしてしまう、ということを覚えておいて欲しい。せっかく慎重にプログラミングされたハイハットのベロシティが、完全にフラット化されて固定のベロシティを使うのと同じ結果に終わるかもしれないからだ。
 
Q:あたしの曲は高音が足りない気がするの。高域を強調するのもやってみたんだけど、あんまりよくなかったの。助けてくれる・・・?
A:高域をブーストするのは、たいてい、問題を悪くするもんだ。不快なキンキン音が増えてしまう。はんなりタイプ(exciter-type)のプラグインを試してみて。これは華やかな音を追加するよう作られている。BBE Sonic Maximizerか、RGC AudioのHigh Frequency Stimulator(フリー)がいいんじゃないかな。
 
Q:わしの曲はどぎついんじゃ。耳がいかれてしもた。直せるかいな(音を)?
A:たぶん。あなたがお探しの不快な周波数は、ふつう1〜3KHzの間にあります。イコライザーをそのあたりに持っていって、カットしてください。
 
Q:僕はラウドネスで幸せになれてるんだけど、まだ「臨場感(presence)」が足りない。どうしたもんかなあ・・・?
A:あなたがお探しの周波数は、6〜12KHzの間にある。この帯域にまったりしたブーストをかけてみて。スタインバーグのSpectralizerがいいかもしれないし、他の「魔法の箱」もある。それは、ハーモニックジェネレータで合成した倍音を生成し、透明度と鮮明さを増加させるものだ*10
 
Q:ベースが足りねえ。ベースをくれ!
A:ふつうに答えると、イコライザか魔法のプラグインをお試しいただくのがよろしいかと。Waves MaxxBassやBBE Sonic Maximizerはどちらも低音を増幅できる。標準的なイコライザーを使うのが好みなら選択肢は増えるから、それぞれ試してみて、お気に入りを見つけるのがいいだろう。中低域に突っ走りすぎると、音に「箱っぽさ(boxiness)」がもたらされるという問題が発生しがちだ。犯人は100〜400Hzの範囲にいるからカットしてみて。ラウドネスという観点でベースはOKだとしても、もっと深みを与えたいこともあるだろう。30〜40Hzの範囲に穏やかなブーストをかけて、約100〜120Hzを穏やかにカットしてみて。
 
Reasonでもできるの?
Reasonははっきり言ってマスタリングツールじゃない*11。Reasonは、作曲とミキシングをするためのものだ。、それをした後に、最も高い水準でオーディオファイルにちょっとした深みを与えたり、手持ちのソフトウェアやハードウェアができうる限りのサンプリング周波数を与えるといったことはReason以外のソフトを使ってやればいい。こう言ってしまうとアレだが、Reasonはもっとイコライザやコンプレッションを進化させる必要がある。RPS形式で楽しんだり、「総仕上げ(finalized)」を曲に追加する為には、素直にReasonを離れた方がやりやすい。たったひとつのCOMP-01やPEQ-2マスターコンプレッサとして使っているのをソングアーカイブで見ることがあるだろう。だけど、たったひとつのコンプレッサでは満足できる結果をもたらさない。極端に激しい曲ならなおさらだ。それら(COMP-01やPEQ-2)は全周波数域に働きかけるものだから、思わず頭をかがめてしまうようなエフェクトになってしまいがちなのだ。つまり、意図したのとは違う音を押し出してしまう。たとえば、音場感(soundascape)を逸脱したドミナントバスドラムは、コンプレッサにすべてのビートに甚大な影響を与えるよう無理に働きかけてしまって、バスドラムが鳴るたびに他の音が「聞こえる範囲」から消えてしまう、なんてことになってしまう。この問題を克服するには、マルチバンドコンプレッサを使う必要がある。これはまるで打楽器のように機能するコンプレッサで、自らが受け持っている一個所の周波数帯域に働きかけるものだ。3つの帯域(低音、中音、高音)でふつうは事足りるだろう。Reason2.5で登場した2つの機器のおかげで、Reasonラックにあなただけのマルチバンドコンプレッサーを構築できる*12。その手順は以下のとおりだ:
 1 14:2ミキサーを作る
 2 Spider Audio Merger & Splitterを作る。これはマスターミキサーの出力をステレオに分割するものとしても、(ステレオ信号を)マージするものとしても使える
 3 BV512ボコーダを作る。オートルーティングしないようにシフトキーを押しながらだ(そうすることでReasonはここはふさわしくないと推測するわけだ)
 4 3つのボコーダをイコライザモードに設定し、512バンド(FFT)に設定する
 5 3つの周波数帯に分けるために、それぞれのBV512のディスプレイにあるスライダーをつかう。それぞれのボコーダ/イコライザが担当部分以外のバンドで機能しないよう、3つの範囲のうちひとつだけ(1〜10とか)を残して、他のスライダーはゼロにする。
 6 4のステップを繰り返して、中音用、高音用のBV512を割り当てよう。つまりディスプレイの真ん中だけ(11〜22とか)を割り当てるものと、右にだけ(23〜32とか)割り当てるものに分ける。(図や.rnsの例を参考にすること)
 7 3つのCOMP-01をつくる
 8 Spider Audio Merger & Splitterを作る
 9 あとはルーティングだ。ミキサー出力をSpider Audioのスプリット入力に接続、Spider Audioのスプリット出力1〜3をBV512の3つのcarrier inputsに接続、コンプレッサの3つの出力をSpider Audioのマージ入力1〜3に接続、Apider Audioのマージ出力をハードウェアインターフェースに接続
このテーマのバリエーションとして、COMP01とBV512のペアをもう一組追加して4バンドのマルチバンドコンプレッサを作ってみよう(低域+中低域+中高域+高域とか)。
あるいはCOMP-01をScream 4に置き換えて、Tapeのプリセットにしてみるのもありだ。
これ(multiband.rns)はマルチバンドコンプレッサの設定のテンプレートだ。
さらにおまけとして、ボコーダでイコライザのバンドを調整するというのももちろんありだ。それもマスターイコライザーとして機能するだろう。
 
オンラインリソース
Digital Domain
An Introduction to Mastering by Stephen J. Baldassarre
20 Tips on Home Mastering by Paul White
What to Expect from Mastering by John Vestman

*1:MClassができたことによって、イコライザでは2バンドから4バンドにできるようになった。コンプレッサでは、Input GainやSoft KneeやSolo SidechainやAdapt Releaseなんかが使えるようになった。また、マキシマイザとリミッターは新規に追加されている

*2:have your MasterCard ready and step up to the counter.よくわからんジョークだ。タイトルのマスタークラスとかけているのかなあ。でもマスターカードにはマスタークラスというグレードは無さげなんだが。単にMasterという名のつく言葉を使いたいだけかも

*3:Reason4.0にはこのデモソングは入っていない

*4:個人的には、右は明らかにラウドがかかってるのがわかるけど、真ん中と左の違いはよくわかりません

*5:Volume Unit 音量感を測定するものらしい。でもそんなに人間の耳に近いのなら、その機器の存在意義やいかに

*6:高低域の音を強調して派手にすること

*7:the icing on the cake これはDr.REXのとこでも出てきた慣用句。この訳が適切かどうかは自信ない

*8:こういうまくし立てるような文章は手に負えない。ちなみにDQNの正確な意味は知らない

*9:なんとすごいソフトであることよ。まるでドラえもんの世界だ。でもドラえもんの道具は姑息なだけで、根本解決をしてくれないことが多いから、その意味ではドラえもんの世界をすでに超えている

*10:UN-16ユニゾンのことを言っているのかな?

*11:MClassの登場によってマスタリングもそれなりにできるようになった

*12:これもMClassの登場によって選択肢は増えたが、ここに書いてあるようにボコーダを使うほうが直感的で個人的には好みだ