新宿に着いて、輪行袋をかついで駅構内を歩いていると、女の人に声をかけられた。
「写真撮らせてもらっていいですか。大きいかばんを持っている人を撮ってるんです」
なんだそれはと思いつつ、いいよと返事をすると2枚だけ撮られた。
「すっごい大きいかばんですね。自転車ですよね」
「自転車です」
「どこかへ行く途中ですか」
「山へ行った帰りです。もう帰るところなんです。写真は、趣味ですか」
「いつか写真集を出したいんです。よかったら、今日撮った写真をお送りしますけど」
フィルムカメラのようだった。住所を教えなければならないのでめんどくさいから断った。
「うーん、写真集が出るまで待ってます」
「じゃあ私が有名になったら連絡ください!」
その自信はいいな。前向きな人だ。なんで大きいかばんを持っている人を撮りたいのだろう。物質に埋もれる現代人のカリカチュアとしてそのテーマを選んだのかもしれないが、そういう大仰な思想ではないか。ただおもしろそうだという理由だけで、そうしたんだろう。
しかし輪行袋ほど大きいかばんを持っている人は他にいなさそうだ。他にあるとすれば、ゴルフバッグとか、女の買い物に付き添わされている男とか、それくらいじゃないかなー。