さてどうして財布を落としたのかも書いておこう。
8月30日に引越しをする(入居は9月1日からだが)ので、その荷造りのためのダンボールを、江東区のホームセンターへ買いにいったのである。手ごろなサイズのダンボールを5つとガムテープを1つ購入。さすがにサイズが大きいので、そのままじゃ持って帰れない。ひもで縛って取っ手をつけねばならなかった。レジで「取っ手をつけたいのですが」と聞いてみると、向こうの棚にひもと取っ手があるから自分でやってくださいという。なるほど、このあたりにも Do It Yourself が。
そうしてお金を支払ったが、そのとき肝心の財布は、おそらく手に持ったままだったと思う。ダンボールがずるりと落ちそうになるので、あわてて財布をカバンの中にしまうのも忘れていたと思われる。で、棚にもっていって早速ダンボールを紐でしばる。ううむ、ぺちゃんこのダンボールは縛りにくいなあと苦闘するまま財布のことは頭になかった。「さあできた、帰ろ」
ダンボールは自転車では運べないから地下鉄で行ったのである。帰りの地下鉄の切符を買おうとして愕然。すぐさま棚に置き忘れたのだと思い立ってダッシュ。が、すでになかった。財布の拾得物はないかと店員に聞いてみたが、ないという。早くもその時点であきらめた。あそこ意外では財布を取り出していないから。
とりあえずどうすればいいのかわからないので110番に電話した。そういえばはじめてじゃわい、携帯からかかるのかなあと心配になったが、ちゃんとかかった。おばさんが出て咄嗟に
「事件ですか?事故ですか?」
「え、ええと財布を落としてしまったのですが」
「それなら最寄の交番か警察署まで届けてください」
「わかりました」
ところが最寄の警察署はどこかわからんではないか。しょうがないので「ありそう」なところに行ってみたら、交番があった。こういうときの勘はするどいのだよ。
だが交番の入り口は鍵がかかっていて開かない。ガラス越しに内部を見回してみると、机の上に「ただいまパトロール中です。ご用の方はこの電話をお使いください」なる札が立っている。いや、私めがご用の方なのであるが、入り口が閉まっているせいで電話に手が届かぬよ。理不尽すぎないか。しかしそのときは自分に一方的な負があるように感じられたので交番の前でしゃがんで待っていた。11時ごろ。何回もカバンの中身を確認して。
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40分ほど待ったが、ポリスは帰ってこなかった。さすがにイライラしてきたが、周到な私は財布の中に何が入っていたかをメモに書きだしていた。そうして1時間待ったが、やはり来ず。ひもじくなってきた。上野に帰って警察署に行くか。そのほうが早そうだ。
だがどうやって帰ればいいのであらうか。歩いて帰ればいいのであらうか。ちょっと遠いなあ。1時間はかかるだろう、ダンボールもあるし、大変そうだ。何よりのこのこ歩いている間にクレジットカードが使われてはたまらん。
金もカードもないからタクシーなんて乗れないし・・・いや、でも家に帰れば通帳があるではないか。通帳があれば、ATMで金がおろせるんじゃなかったっけ?その金でタクシー代を払えばよい。これはいい案、ひとり合点してタクシーに手を振る。
乗車し、発車する前に断っておく。
「あの、ちょっと待って。さっき財布を落としたので、今お金を持っていないんです。なのでいったん家に帰って通帳で金を下ろします。それでいいですか?逃げませんので」
「はあそんなトラブルですか。いいですよ、どこまで行きます?」
「とりあえず、台東区の区役所あたりに」
「はいよ」
ああ、タクシーにもこんなメリットがあったのか。今までさんざんバカにしたり、邪魔したりしてごめんよ。これからは自転車とタクシーお互い思いやりの心持で道路を分け合おうぢゃないか。
タクシーおっさんに聞いてみる。
「財布にクレジットカードも入っているんですが、使われるかなあ。タクシーだと暗証番号は不要ですよね。一定額以下は暗証番号が不要なんですかね」
「たしかそのはずです。5万円以下だったかな?いや、4万くらいか」
私の脳裏に通帳の残高−5万円の数式が渦巻く。せめて分割払いで!(ありえないか)。もしフリーターを続けていたら死ぬ可能性がある額だ。
「はーい、じゃこの辺でいいですか」
「へ?」
台東区役所」
「いや、違いますよ。ここは、」
「あっここは墨田区役所か!すみません!どうやっていくんでしたっけ」
「別にいいですが。急いでるんです。浅草通りですよ」
「ここから浅草通りに出られないですよ」
「・・・(そんなんしらんがな)」
「しまったなあ、じゃあ料金はここでとめておきます。1,420円です。メーターはこれ以上になりますがお支払い額は1,420円でいいです。遠回りした分と台東区役所は同じくらいの距離なので」
これはラッキーだった。台東区役所のほうが2キロくらい遠いのに。たぶん500円以上は得したな。
家についてタクシーにカバンを置いたままダッシュで通帳を取ってくる。そのまま銀行へ。
「日曜だと、通帳だけじゃおろせないかもしれないですよ」
「そうでしたっけ?じゃ、どうしよう・・・まあとにかく行ってみます」
「まあ無理でしたら、振込用紙がありますんで、後日それでお支払いください。こういうトラブルがあったときのためにそういうのもご用意しているんですよ」
それは、知らなかった。無賃乗車を誘発しかねないのに、よくやるなあ。とはいえ今日のタクシーには(額を得していることもあり)感謝しているので、ちゃんと支払うことにするよ。結果、ATMでは通帳だけではおろせず、振込み用紙を受け取った。ありがとうタクシー。