奮発して瓶ビールを買って、隣のマンションの屋上で飲んだ。屋上はすべての情報を遮断できる数少ない場所だ。
明日は28歳の誕生日だ。27歳の1年間は、いろいろとやることが多かったせいか、自分がこれまで生きてきたことが何だったのかをあまり考えなかった。今日はじめて考えたかもしれない。
でも今日考えたことはなんとも名状しがたい。小説の内容は説明できても絵画の内容は説明できないように。時間的にも空間的にも、とてつもなく大きなスケールの中に自分は存在していると感じた。今までの自分はなんだったのか。これから自分はどうなってゆくのだろう。不幸なのか幸福なのかよくわからん。
でもあらゆることに意味を求めたりはせず、ただ事実だけを見てゆくことが自分にできるすべてである。事実が端的にそこにあって、自分がそれを目撃して何かを感じられていることが驚くべきことのように思えた。ボキャブラリーが貧困なせいでうまく表現できない。この感じはたとえばフランス語をしっていれば表現できるのだろうか。
でもひとたび屋上をおりると、まるで屋上で感じたことが夢だったかのように思われた。不思議な場所だ。